2025.04.10

イグサ農家 岩田さんが語る - 40年の歩みと未来への想い

  • インタビュー

イグサ栽培を始めたきっかけ

今から40年前、安瀬路地方ではイグサ栽培が非常に盛んで、周囲を見渡せばどこもイグサ畑が広がっていました。特別なきっかけがあったわけではありません。親から受け継いだ土地を活かし、地域の風土に合った作物としてイグサを選び、自然な流れの中でイグサ農家としての道を歩み始めました。

当時の安瀬路では、イグサ農家が多数存在し、互いに知識を共有しながら発展してきた時代。農業の機械化が進みつつあったものの、まだまだ手作業も多く、体力と根気が求められる仕事でした。それでも、地域の農家同士の結びつきは強く、お互いに支え合いながら仕事を続けていました。

初めてのEM農法への挑戦

これまで長年にわたり、従来の農法でイグサを育ててきましたが、新たな挑戦としてEM農法を取り入れることにしました。EM農法とは、Effective Microorganisms(有用微生物群)を活用した農法で、土壌の健康を保ち、化学肥料を減らしながら作物の品質を向上させることができるとされています。

まずは小規模で試験的に開始し、60畳分の面積で実践しました。しかし、1年目からすぐにうまくいくわけもなく、特に寒い時期の生育が難しく、窒素分の調整にも課題が残りました。今年はEM菌に加えて発酵鶏糞を使い、より土壌を豊かにしながら成長を促す計画を立てています。

EM農法は、単なる技術の導入ではなく、土作りから見直す農法。化学肥料に頼らず、土の力を引き出すことで、環境にも優しく、持続可能な農業を実現できるのではと思っています。こうした取り組みが、今後のイグサ栽培の発展につながることを期待しています。

イグサ農家が直面する課題

栽培そのものに関しては、大きな問題はありません。長年の経験を積んできたこともあり、安定した品質のイグサを育てることができるようになったという背景もあるので。しかし、最大の課題は「需要の減少」です。

近年、日本の住宅事情が変化し、畳の需要が減少しています。和室のある家が少なくなり、新築住宅ではフローリングが主流になっています。かつてはどの家庭にもあった畳の部屋が、今では特別な存在になりつつある。さらに、安価な海外産の畳表が流通し、国産のイグサが市場で競争するのが難しくなっています。

国産の畳表は、海外産と比べて耐久性や香りが優れていると思っています。しかし、その価値が十分に伝わらず、価格の安い海外産が選ばれることが多い。この状況を打破するためには、国産イグサの良さをより多くの人に知ってもらうことが重要だと考えています。

後継者不足と未来への期待

もう一つの大きな課題が後継者不足。イグサ農家は年々減少しており、新しくこの道に進もうとする若者も少ないのが現状です。農業全体が抱える問題でもありますが、特にイグサ栽培は専門的な技術が必要で、一朝一夕には習得できません。

現在のところ、具体的な後継者育成の取り組みはありませんが、日本文化としての畳が見直されることを期待しています。最近では、和の暮らしを見直す動きもあり、畳の魅力が再評価される機運もあります。そうした流れの中で、イグサ農業が次の世代へとつながっていけばと思っています。

40年の経験が生んだ「安定した品質」

イグサ栽培を始めた頃は、毎年の気候変動に翻弄され、安定した品質を維持するのが難しかったです。しかし、試行錯誤を重ねる中で、栽培方法を少しずつ改良し、今では毎年ほぼ同じ品質のイグサを育てることに成功しています。

イグサは非常に繊細な作物で、天候の影響を大きく受けます。特に収穫の時期に適切な管理をしないと、品質が落ちてしまう。40年の経験があるからこそ、こうした繊細な調整が可能になり、安定した品質を提供できるようになりました。

イグサ産業の未来と魅力

これからのイグサ産業は、伝統工芸としての側面が強まる可能性があると考えています。日本文化が見直されることで、新たな需要が生まれることに期待しています。

畳の魅力は多くの科学的根拠によって証明されていて、イグサの香りにはリラックス効果があり、湿度調整の機能も持ちます。しかし、そうした理屈を抜きにしても、畳の最大の魅力は「どこでも気軽に寝転がれる」ことにあります。

このシンプルな心地よさが、畳を使う最大の理由だと思っています。

最もやりがいを感じる瞬間

7ヶ月の栽培を経て、刈り取ったイグサをコンテナに詰める瞬間。長い時間をかけて育ててきたイグサを目にし、その出来栄えを確認する時に「今年はいいぞ」と実感します。その瞬間こそが、農家としての喜びであり、やりがいを感じる瞬間。

イグサ栽培は決して楽な仕事ではありません。しかし、一つひとつの工程に込めた努力が形となり、良い畳表として使われることを想像すると、やはりこの仕事を続けてきてよかったと感じます。

今後も、新たな挑戦を続けながら、イグサの魅力を伝え続けていきたいと思っています。

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